演じる人の入門書
読了後にレビューや感想を探しがちなタイプである。
Amazonでおおよそほぼ☆5レビューなのだが自分は☆3なのでその理由を書きたい。
『14歳のためのシェイクスピア』木村龍之介著、大和書房
14歳で「演劇?ってなんだろう、シェイクスピアって?」という人向けの入門書。五幕(=五章)+一章構成、一時間で読めます。
1・ことばの時間
2・ストーリーの時間
3・PLAYの時間
4・演出の時間
5・タイムトラベルの時間
課外・翻訳の時間
著者はシェイクスピア劇の脚本家・演出家で、実際舞台に立つ人からの目線で語られる系の話。
二章までは「シェイクスピアってどんな感じなの?」「どういう話あるの?」というもの。後半は「実際に声に出して読んでみよう、演じてみよう」「自分で演出するなら誰をキャスティングする?」、最後の五章でまた世界的な評価の観点からのシェイクスピアについて。
冒頭パラ読みして買った自分が悪いのだが、今回「演じてみよう」の部分を個人的に求めていなかった・翻訳者との対談で首を傾げて醒めた部分があった。
演じてみようは特に求めていない……というのは完全に個人の事情なので特に語らない。
また、下記は英語がさっぱりわからないしシェイクスピア研究もかじってすらいないど素人の感想であるので間違いだらけだろうがご容赦いただきたい。
木村さんが自身の劇団でシェイクスピア劇を演じるにあたり、松岡和子先生の翻訳を使用・愛用しているので、松岡先生との対談がある。
で、本書の220ページに『夏の夜の夢』を翻訳したときのはなしが出てくる。
2007年に新国立劇場で『夏の夜の夢』を上演したときに、演出家のジョン・ケアード氏が松岡先生の日本語訳のニュアンスを知りたいから再翻訳したことがある。その際、なんか本来の意味とちょっと違う感じっぽかったから訳を直したんだというエピソードがあった。
三幕一場ラスト、媚薬を目に垂らされた妖精の女王ティターニアが、ロバに変身させられた機屋のボトムという男にうっかり惚れてしまい、ベッドに誘うシーンである。
松岡先生訳
松岡先生の翻訳の底本はアーデン版であり、そこに「violated by force(力によって犯される)」と注釈が付いているとのこと。
その部分をケアード氏、
と指摘され、
「犯された乙女の操」→「強いられた独り寝」
と訳を直しました、とのこと。
つまり、
ティターニアが惚れ薬なんかで謎のロバ男を寝所に連れ込むことになってしまい、月がティターニアの操を犯されることを嘆いている
という文章が
ティターニアが惚れ薬なんかで謎のロバ男を寝所に連れ込むことになってしまい、月がティターニアの強いられた独り寝を嘆いている
に変更したということと自分は受け取ったのだが、なんかこれって軽微な変更とかじゃなく意味真逆になるまで違くない??と感じてしまった。わからんけど。
この舞台の世界は、女性が結婚する相手は父親が決めて国王が承認するような世界なので、決められた相手以外と結ばれようとすると死罪になったり、巫女として幽閉されて一生処女を貫き通すとかそういう価値観である。
そのため、冒頭に一度「父親の決めた相手と結婚しなければ貴様は石女となって一生を月に捧げ独り寝をするようになるんだぞ!」と脅されるシーンがある。
だから、対談の中で松岡先生は「強いられた独り寝と訳すことでこの冒頭にもつながるのでこれがぴったり!」と思ったそうだ。
で、自分は、直す前の訳は
「月はティターニアがロバ男と体の関係を結ぶことを悲しんでいるよ。それほど月がティターニアの体を大切に思っているんだよ(ティターニアだから処女の聖性とかあんま考慮してないけど)」
と感じたのだが、直した後の訳は
「月はティターニアが今まで操を守り続けていたことを悲しんでいたんだよ」
に聞こえるわけ。な、なんか、なんかわかんないんだけど、全然違う気がして初読の人の受け取り方正反対になってやばくね??と心がざわざわしたわけ。
自分の手元にあるのは新潮文庫・福田訳なので該当シーンを引用する。
これって翻訳を直す前の訳では??
わたしが信じていたものって……
かくして、もやった。
ちゃんと自分で勉強して訳せよってはなしなんですけどね。
あと、割とおしゃれな装丁の本文で、「あなたはどのシェイクスピアキャラ?」みたいなチャートがあるのはいいんですが、途中でネイティブ日本人からしたら読みにくいフォントの英文があったり、薄グレーの背景に白文字・ただし極細ゴシックフォントみたいな部分があって可読性が悪くてイラッとしました。
おわりです。
Amazonでおおよそほぼ☆5レビューなのだが自分は☆3なのでその理由を書きたい。
『14歳のためのシェイクスピア』木村龍之介著、大和書房
14歳で「演劇?ってなんだろう、シェイクスピアって?」という人向けの入門書。五幕(=五章)+一章構成、一時間で読めます。
1・ことばの時間
2・ストーリーの時間
3・PLAYの時間
4・演出の時間
5・タイムトラベルの時間
課外・翻訳の時間
著者はシェイクスピア劇の脚本家・演出家で、実際舞台に立つ人からの目線で語られる系の話。
二章までは「シェイクスピアってどんな感じなの?」「どういう話あるの?」というもの。後半は「実際に声に出して読んでみよう、演じてみよう」「自分で演出するなら誰をキャスティングする?」、最後の五章でまた世界的な評価の観点からのシェイクスピアについて。
冒頭パラ読みして買った自分が悪いのだが、今回「演じてみよう」の部分を個人的に求めていなかった・翻訳者との対談で首を傾げて醒めた部分があった。
演じてみようは特に求めていない……というのは完全に個人の事情なので特に語らない。
また、下記は英語がさっぱりわからないしシェイクスピア研究もかじってすらいないど素人の感想であるので間違いだらけだろうがご容赦いただきたい。
木村さんが自身の劇団でシェイクスピア劇を演じるにあたり、松岡和子先生の翻訳を使用・愛用しているので、松岡先生との対談がある。
で、本書の220ページに『夏の夜の夢』を翻訳したときのはなしが出てくる。
2007年に新国立劇場で『夏の夜の夢』を上演したときに、演出家のジョン・ケアード氏が松岡先生の日本語訳のニュアンスを知りたいから再翻訳したことがある。その際、なんか本来の意味とちょっと違う感じっぽかったから訳を直したんだというエピソードがあった。
三幕一場ラスト、媚薬を目に垂らされた妖精の女王ティターニアが、ロバに変身させられた機屋のボトムという男にうっかり惚れてしまい、ベッドに誘うシーンである。
松岡先生訳
「さあ、みんな、おそばに控え、私の四阿(あずまや)にご案内して。
なんだか月が涙ぐんでいるようね。
月が泣けば、小さな花もこぞってなく。
犯された乙女の操を嘆いているの」
松岡先生の翻訳の底本はアーデン版であり、そこに「violated by force(力によって犯される)」と注釈が付いているとのこと。
その部分をケアード氏、
「この部分は原文通り、chastity『純潔』がenforced『無理強いされた』という意味だ」
と指摘され、
「犯された乙女の操」→「強いられた独り寝」
と訳を直しました、とのこと。
つまり、
ティターニアが惚れ薬なんかで謎のロバ男を寝所に連れ込むことになってしまい、月がティターニアの操を犯されることを嘆いている
という文章が
ティターニアが惚れ薬なんかで謎のロバ男を寝所に連れ込むことになってしまい、月がティターニアの強いられた独り寝を嘆いている
に変更したということと自分は受け取ったのだが、なんかこれって軽微な変更とかじゃなく意味真逆になるまで違くない??と感じてしまった。わからんけど。
この舞台の世界は、女性が結婚する相手は父親が決めて国王が承認するような世界なので、決められた相手以外と結ばれようとすると死罪になったり、巫女として幽閉されて一生処女を貫き通すとかそういう価値観である。
そのため、冒頭に一度「父親の決めた相手と結婚しなければ貴様は石女となって一生を月に捧げ独り寝をするようになるんだぞ!」と脅されるシーンがある。
だから、対談の中で松岡先生は「強いられた独り寝と訳すことでこの冒頭にもつながるのでこれがぴったり!」と思ったそうだ。
で、自分は、直す前の訳は
「月はティターニアがロバ男と体の関係を結ぶことを悲しんでいるよ。それほど月がティターニアの体を大切に思っているんだよ(ティターニアだから処女の聖性とかあんま考慮してないけど)」
と感じたのだが、直した後の訳は
「月はティターニアが今まで操を守り続けていたことを悲しんでいたんだよ」
に聞こえるわけ。な、なんか、なんかわかんないんだけど、全然違う気がして初読の人の受け取り方正反対になってやばくね??と心がざわざわしたわけ。
自分の手元にあるのは新潮文庫・福田訳なので該当シーンを引用する。
タイターニア
『さあ、みんな、この方の御用をたすのだよ。すぐ亭(ちん)に御案内しておくれ……月がどうやら涙を含んでいるような。月がないたら、どんな小さな花々も、一輪一輪、涙をながす。きっとどこかで、清いおとめが穢されるのを悲しんでいるのだろう。』
これって翻訳を直す前の訳では??
わたしが信じていたものって……
かくして、もやった。
ちゃんと自分で勉強して訳せよってはなしなんですけどね。
あと、割とおしゃれな装丁の本文で、「あなたはどのシェイクスピアキャラ?」みたいなチャートがあるのはいいんですが、途中でネイティブ日本人からしたら読みにくいフォントの英文があったり、薄グレーの背景に白文字・ただし極細ゴシックフォントみたいな部分があって可読性が悪くてイラッとしました。
おわりです。